見つけた、僕のダーリン。
人生最後で最高の彼氏。
僕の全てをもっていってしまう強い人。
僕のことをすごくすごく考えてくれる、僕のためにいるような人。
毎日が、胸がいっぱいだよ。
あなたといるだけで、僕はどこまでもぼんやりと出来るみたい。
ねえ、僕は、あなたのような強い人を探していたの。
そう思って生きてきたわけではないけれど、あなたに出逢ったことで、僕はどんな人を求めていたのかがよくわかった。
あなたにはたくさんのことを気づかせて貰ったんだよ。
自分がどうしたいのかって、この歳になってきちんと考えた気がする。
そう、僕は、あなたに想われながら生きていたい。
新しい彼氏が出来たことで、こんなに仕事のことを考えるとは思わなかった。
単純に学校支援から離れることにイコールして、ユンホと離れることになるのも寂しい。
だって付き合い始めてまだ間もないし、学校の中にいる彼を見ているのもすごく楽しい。
わざと彼とクラスの教室の前を通ってみたり、職員室の彼の席を探してみたり、そういつことがまだまだ新鮮で心が躍る。
何より子供たちと接する彼の顔はとても素敵。
そういうせっかくのチャンスを逃すのも、恋をしている間としては残念だしもったいない。
でも、今の仕事である統括を降りることは、それ以下の役職になるということだ。
それももったいないとも思った。
特別いい給料ではないけれど、やっと安定した収入を得ることが出来た。
他の学校まで目が行き渡らないこともあるし、本社の仕事だってある。
それらの責任だってやはり感じる。
でも、教師の彼氏を持って、彼が見つめているものを垣間見た時、僕はその深さと激しさにとても心を打たれたんだ。
ああ、僕の仕事は、子供たちに指導は出来ないけれど、人格形成の支援でもあるんだって、気づいたから。
気づいた途端、それを彼も解っていてくれたんだって知ったから。
自分にも、彼にも驚いた。
理想の彼氏を見つけたばかりではなく、きちんと向き合うべき仕事が見えた気がしたから。
自分の内部が急に忙しくなってしまって、少しパニック状態だったのかもしれないね。
自分の仕事と、彼との時間、それから自分の年齢や世の中への体裁。
そういうものを全部並べてしまって考えていた。
今までの僕なら、並べたとしても答えって変わらなかったかもしれない。
きちんと答えを見つけて、受け入れて、自分で選ぼうとしていたはずだ。
けれど今は違う。
僕は自分の仕事よりも大きく重い存在を見つけてしまった。
ユンホ。
僕の全ては、彼の方を向いてしまう。
彼も欲しいし、仕事もしたい。
愛しい彼氏に認められる仕事がしたい。
僕は生きることに、とても欲張りな生き物らしい。
耳に残る、彼の声。
驚いた。
僕からは言えない言葉が、彼の口からやって来たのだ。
異性も同性もそういう言葉ありきの関係なのかはよく分からないけど、僕は望んでいたんだ。
言われたいし、声にして欲しい。
好きって、愛してるって、結婚しようって、言われたい。
そして多分、そういうのを強く望んでいたから、自分の転機に立った今、駄々をこねるように迷ったりなんかしたんだろう。
言葉にしないのは得意だ。
余計なことを言わないことに注意をしているのは慣れている。
でもその分、伝えることには自信がない。
自分の気持ちを相手に言葉にすることは苦手だ。
恥ずかしくもなるし、相手のリアクションを待つ間は逃げたしくなる程だ。
でも、彼には、ユンホには、そうも言っていられない。
伝えたい。
そう思う。
好きだ。
愛してる。
キスして。
抱いて。
結婚して。
溢れるような気持ちが後から後から湧いてきてしまうのだ。
黙ってはいられなかった。
甘えたい。
甘やかされたい。
甘えられたい。
彼の背に、胸に、もたれかかって抱きしめたい。
抱きしめられたい。
密接していたい。
やはり、甘えたい。
カフェで告白をされてから、僕は一人になってもしばらく動けないでいた。
コーヒーもトーストも冷めている。
けれど僕の額も頬も目の周りも、胸も、指先も熱かった。
じんじんと疼くように指先が震えていた。
それは胸の奥からやってくる震えだ。
「俺がお前の責任をとるから。」
その言葉が僕の体の中を駆け巡ã�
£ている。
僕の血管中を駆けていて、指先を震えさせるのだ。
ぼんやり過ごして1時間。
冷めたトーストを頬張り、冷めたコーヒーで流し込む。
仕事の時間だ。
店を出た瞬間、スマートフォンが鳴った。
マナーモードにして届いたメッセージを読む。
彼からだった。
「2時間目行くから」
そうとだけ入っていた。
1時間はもう始まっている時間だから、着いたら直ぐに書架を整えなくてはいけない。
僕は学校へと急いだ。
副校長先生に出勤簿に捺印してもらい、すぐに図書室に向かう。
スーツのジャケットを脱いでエプロンを着用する。
放課後に誰か入った形跡があって、乱れた書架を一通り整える。
時計を見るとちょうど1時間目が終わる頃だ。
この学校はいちいちチャイムが鳴らないから難しい。
カウンターに戻り日報を今日のものに直す。
借りていた絵本をバッグから出して返却をし、棚に戻す。
何度か読み返して、ボツになったものたちだ。
来週の読み聞かせで使う絵本を選び直す。
昔公共の図書館で読み聞かせをした時に読んだものを選んだ。
随分昔に出版されたの外国の絵本だ。
昔話ではないのだが、そんな雰囲気があるこの絵本は、聞いている子供達をとても集中させてくれた。
やはり馴染んでいるものが、読み手にも聞き手にも一番しっくりくるのかもしれない。
そこでバラバラと足音が聞こえた。
ドアをノックする音がした。
『失礼します、』
彼の声だ。
ドアが開いて子供たちと入ってくる。
胸を張って子供たちを引き連れて、僕に向かって口角を上げた顔で見てくる。
僕が好きな彼の顔をしている。
胸がキュンとなるというのを、彼に出会って実感した気がするんだ。
『シム先生に挨拶して、』
彼が並んで入ってくる子供たちに向かって言うと、子供たちは僕を見上げながら挨拶をして歩く。
ぱらぱらと子供たちが着席をすると、彼はすぐに日直の児童に授業開始の号令をさせた。
『今日は、来週行く社会科見学の話をする。』
社会科見学。
ああ、まち探検のことか。
『みんなは近くのスーパーマーケットと消防署、図書館に行く。』
けっこうハードスケジュールなんじゃないかな。
どうやら1クラスずつ1箇所に向かって3クラスバラバラに違う場所へ回るらしい。
引率の保護者ボランティアも付くとかで、世の中の保護者はなんて多忙なんだろうと思う。
自分の時代はそんなに保護者が学校行事に介入していただろうか。
『今日はせっかくだから、シム先生に図書館の話をしてもらおうかなって思うんだ。』
『え?』
そんな話は聞いていない。
無茶振りだ。
だが、まあ、事実だけを述べればいいだろう。
僕は期待の目を向けている彼に向かって頷いて応えた。
今夜は報酬に精一杯甘えさせて貰おうと思う。
『シム先生、図書館に行ったらどんなところを見るといいと思いますか?』
早速来た。
どんなところと言われても、図書館のひとつひとつに違いがある。
全く同じ図書館なんてない。
小さな規模の図書館と、大規模な図書館では収集の特徴だって大きく変わるのだ。
なんと答えたらいいものか。
『皆さんが行くのは、ここから近いあの図書館ですか?』
彼に問い返す。
子供たちの視線が僕と彼に行ったり来たりしているのがよく分かった。
『そうです。』
笑顔で答える僕のダーリン。
今は少しだけ憎い。
この近くの図書館は、うちの会社が受託しているところだ。
勿論行ったこともある。
僕は学校支援の担当者だからそこまで図書館には出向かないのだけれど、全く知らない訳でもない。
知ってなくてはいけない。
『そうですね…、』
子供たちの興味を引けること。
図書館の秘密。
それは―――
僕はユンホの傍に寄って耳打ちをした。
『書庫の見学ってありますか?』
聞くとユンホは親指を立てて頷いた。
僕はすぐに子供たちの方へ向く。
『図書館には、実は秘密の部屋がいっぱいあります。』
そう言うと子供たちが色めき立つ。
『自分の手で、借りたい本を手にすることが出来る本棚の他に、大切に保管しておくための本棚がある部屋があります。』
子供たちの視線と、彼の視線を感じる。
両方の頬が熱くなりかけている。
『大切に保管しておく貴重な本や、本棚に置ききれない本を閉まっておいたりする部屋を閉架書庫と言います。』
話していて、閉架書庫独特の匂いを思い出す。
『書庫には、変わった本棚があって、ボタンひとつで自動で動く、ロボットのような本棚に閉まってあります。』
子供たちが声を上げる。
そう、その調子で想像を膨らませてごらん。
楽しいでしょう?
そういう想像が出来る手伝いをしているこの仕事が、今は楽しいと思えるんだ。
それはこの子達の担任である、彼に教えて貰った気がするんだよね。
うん、きっとそうなんだ。
外へ出向く学習にきちんと楽しみを持つこと。
帰ってきて現実を見た時に思ったこと。
そこからまた新しい何かを考えられる力を付けること。
そういうステップを踏ませる手伝いをするのが、この仕事なんだ。
考えるために、答えを見つけるために、自分の頭のなかで選べるツールの幅を増やしてあげる基礎を作るのがこの仕事。
図書室に行けば何か見つかる。
図書館に行けば何かわかる。
どんな人に尋ねればいいのか、誰に話せばいいのか、そういう判断の基礎になるんだと信じている。
陰ながらそっと導いてあげられるなら、とても素敵なことだよね。
ユンホ。
今朝、あなたが言ってくれたように、僕は大人にも
子供にも、気づいて欲しいことが沢山あるなって思ってる。
あなたの手伝いが出来るこの仕事を、心から素敵だなって思えるんだ。
その他に本の修繕に使う特別な道具の話や、どんなふうに図書館同士で本が動いていのかを話した。
図書館を家族と一緒によく使う子も多く、得意気に話をしてくる児童もいた。
ユンホが再び前に出てくる。
子供たちに話しかけた。
『じゃあシム先生に聞いてみたいことはあるか?見学に言った時にちゃんと話が出来るか、ここでチャレンジしてもいいよ。』
そうなると、全てに答えてしまっては見学の日に意味がなくなってしまう気もするな。
こっちの方が緊張する。
子供たちは一斉に手を上げる。
図書館にはどれぐらいの本があるのかだとか、1日にどれくらいの人が利用するのだとか質問が飛んでくる。
これこそ図書館で聞くべきだ。
だから僕は図書室の利用状況と所蔵数を答えた。
図書館には何倍の本があるのかという答えを楽しみにしていてくれたらいいね。
ある男の子が手を上げた。
ユンホが指名する。
その子は立って僕を見た。
『シムせんせいは、ユノせんせいといつからともだちですか。』
『、』
僕とユンホは面食らった。
突拍子もないことを聞いてくるのもまた子供だ。
僕達は顔を見合わせた。
『私がこの学校にきてから、仲良くなりました。』
『どうしてなかよしになったんですか、』
どうしてだっけ。
ユンホを見る。
すると彼は顎を動かして僕に答えて見せろと目で言う。
ずるい。
『それは…、そうですね、ユンホ先生はとても一生懸命にみなさんの先生をしてるんだなって思ったからです。だから、お手伝いがしたいなって、思ったんです。それがきっかけかな。』
なんだか子供たちの前で馴初め話をしているみたいで恥ずかしいな。
『いっしょにあそんだりするんですか?』
手を上ながら、質問をしてくる子が出た。
僕はユンホを見た。
彼は僕を見て頷いた。
いいの?真面目に答えちゃうよ?
『はい。学校がお休みの日は、一緒に色んな話をしたり、ご飯を食べたりします。』
すると子供は、「えーっ」とお決まりの声を上げる。
おかしいな、なんでこんな質疑応答の時間になっているのだろう。
『じゃあ今度は先生から、シム先生に質問しようかな。』
なんだろう。
僕は頷いた。
『シム先生は、どうして図書室の仕事を始めたんすか?』
軌道修正されたようだ。
よかった。
ああでも、どんなふうに掻い摘んで子供たちに話したらいいのだろう。
大人に対して説明するのであれば、子供たちには余計なことばかりだ。
そして今は来週の見学の事前学習のようなものなのだ。
伝えることはきちんと選ばないといけない。
そうだなあ。
どうして。
始めたきっかけと、続けている理由は同じじゃないかもしれないけれど。
大切な想いという部分には、子供たちにも嘘はつきたくないよね。
それはユンホも同じなんだと思う。
教師として、大切な想いを言葉にして、態度にして、接しているのだから。
僕はそんなユンホと同じ場所に立っていられる今の自分が好きだ。
『私は、』
声にすると緊張感が高まる。
『学校に通う皆さんや、先生達、それから、街の図書館に来る人達すべてが、』
自分が言葉にすることを、本当に子供たちの前で発していいものなのか、やはり不安になる。
『誰もが使えて、誰もが等しく利用出来るというこの場所が好きなんです。』
ユンホの視線を感じる。
『誰かの何かが見つかるかもしれない、この場所が好きなんです。』
僕は、僕のダーリンになる人を見つけたんだ。
いい仕事をする人なんだなって、ダーリンの素敵なところを見つけることが出来た。
この場所を有効に使って、子供たちの何かを見つけてあげようとする彼に出会えた。
この仕事をしていてよかったと思える瞬間を見つけることが出来た。
胸が熱くなる瞬間に出逢えた。
『だから、皆さんにも、迷った時、困った時、気持ちを変えたい時、そんな時も図書館や図書室でヒントを見つけようって思いつくようになって欲しいなって思うんです。』
時には、何もせず駄々をこねてみたくなるけれど。
『皆さんが自分から答えを見つけにいけるように願いを込めて、私はこの仕事をしているんです。』
大好きなダーリンに、強引な答えを突きつけられるのも好きだけれど。
選択のツールを選べる大人になって欲しい。
たくさんの選択があることに気づいて欲しい。
それを今のうちに養って欲しい。
願いを込めて、仕事をしている。
叶えられるように努力をしている。
これからもっと提案したいこともある。
『俺とシム先生は、学校でみんなとこんな勉強をしたいとか、あんな見学に行きたいとか、そういう話もたくさんするんだ。』
いつの間にかユンホが隣に立ち、子供に向かって話している。
目を輝かせて、希望に満ちた唇で。
『俺はシム先生にその相談をするんだよ。シム先生は一緒になって一生懸命考えてくれるんだ。何日も同じことについて考えてくれてたりもするんだよ、真剣に。』
ダーリンの声そのものが真剣だった。
キュンときた。
『そういう誠実なところがすごく好きだし、すごく助けられてる。俺は一生の友達を見つけたんだなって思った。』
頷くしか出来ないけど、許してね。
僕は言葉には出来ないのだから。
『仕事をしていて、働いていて、大切な友達が出来ることもあるんだ。来週行くところでも、そういう人達がもしかしたらたくさんいるかもしれない
。』
そうだね。
表面だけでは分からない絆を持った人達はきっとたくさんいる。
それはポジティブに考えたい。
僕が今、そんなふうに思えるポジティブな状態だから。
『どんな施設なのかもみんなには見て欲しいし、どんな人が働いているのかも見てきて欲しいんだ、わかったか?』
彼が話を締めくくる。
子供たちが声を出して返事をする。
それから見学先の人達にする質問作りの時間になった。
僕は思う。
僕は、働くリア充でありたい。
かっこいい彼氏を持った普通の人でありたい。
彼氏も仕事も大切にするような大人になりたい。
そういう当たり前で普通な人でいたい。
そしてそれを叶えてくれるもの、僕のダーリンなんだと信じてる。
働く幸せな普通の人でいたい。
彼となら、きっとここで平和の種だって蒔くことができるんじゃないかって思うよ。
本当に、彼なら、僕のダーリンなら、子供たちの遠い未来へ向けて、平和な選択を導く種を握らせてあげることが出来ると思うんだ。
だからその手伝いを、そして見届けることを、僕は愛を持って続けたいと思うだ。
LOVE & PEACE
図書室から、世界中に愛と平和を。
そして、
僕だけの愛と、仲良しの秘訣の種をちょうだい。
終わり。
ご愛読ありがとうございました。